タイ政治経済ラボ / 第18章 タイで会社をつくる
第18章約40分6節

タイで会社をつくる

――実践編① 外資規制・設立・ビザ・土地

ここから実践編です。第I部〜第III部で学んだ制度を、自分の会社と生活に適用する段階に入ります。この章では、事業形態の選択、外国人事業法(FBA)という最大の壁、会社設立の手順、ビザと労働許可、そして土地と不動産を扱います。ここに書いてあるのは「論点の地図」です。実際の手続きは必ず専門家と行ってください。

この章の要点
1

外国人事業法は3つのリストで外資を規制する。とくにリスト3の「その他のサービス業」という包括条項が広く効く。

2

外資49%超で事業をするには、外国人事業許可(FBL)かBOI恩典か、条約による例外のいずれかが必要。

3

外国人は土地を所有できない。コンドミニアムは建物専有面積の49%まで所有でき、海外からの送金証明が要る。

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どの形で事業をするか

最初の分岐は事業形態の選択です。タイでは圧倒的多数が非公開株式会社(บริษัทจำกัด Co., Ltd.)を選びます。

形態収益活動外資規制主な用途
現地法人(Co., Ltd.)FBAの対象本格的な事業。もっとも一般的
駐在員事務所不可外国人事業許可が必要市場調査、本社への報告、品質管理
支店(ブランチ)外国人事業許可が必要な場合が多い工事請負など期間限定の事業
合弁(JV)タイ側51%なら規制外規制業種への参入、販路の確保
公開株式会社(PCL)FBAの対象株主15名以上。上場を目指す場合
IBC(国際事業センター)恩典対象地域統括、共通サービスの提供。駐在員の所得税15%
⚠️まちがえやすい|駐在員事務所は「営業できない」
駐在員事務所(Representative Office)でできるのは、①仕入先の調査、②本社が輸出入する商品の品質管理、③本社製品に関する情報提供、④市場調査、⑤本社への報告――の5つに限られます。見積書を出す、契約を結ぶ、代金を受け取ることはできません。実務でこの線を越えると、無許可の事業として摘発されるリスクがあります。「まずは駐在員事務所で」と考える場合、何ができないかを社内で共有しておいてください。
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外国人事業法(FBA)――最大の壁

外国人事業法(FBA、1999年)は、外国人(外国籍者および外資が過半を占める法人)が行える事業を制限する法律です。3つのリストがあり、それぞれ扱いが違います。

リスト1
外国人は行えない(絶対禁止)
・新聞・ラジオ・テレビ
・稲作・畑作・果樹
・家畜・林業・漁業(領海内)
・土地の取引
リスト2
商務大臣の許可+内閣の承認が必要
・国防に関わる事業
・文化財・伝統工芸
・天然資源・環境に関わる事業
・国内の陸海空運
リスト3
商務省事業開発局の許可が必要(41業種)
・会計・法律・建築・技術サービス
・建設(一部除く)
・小売・卸売(資本要件あり)
・ホテル・飲食・広告・仲介
・その他のサービス業(包括)

「その他のサービス業」という包括条項があるため、多くの外資系サービス事業がリスト3に該当する。

実務でとくに問題になるのはリスト3です。41番目に「その他のサービス業」という包括的な項目があり、リストに明記されていないサービス業のほとんどがここに落ちるからです。コンサルティング、ITサービス、人材紹介、物流、そしてグループ会社への役務提供までが対象になりえます。

では、どうやって外資100%にするのか

  1. BOIの恩典を取る(第13章)。製造業なら最も現実的。承認を受ければ外資100%と土地所有が認められる。
  2. 外国人事業許可(FBL、ใบอนุญาตประกอบธุรกิจของคนต่างด้าว)を取得する。商務省の審査で、タイへの技術移転や雇用への貢献が問われる。時間がかかる。
  3. 条約による例外を使う。米国企業は米タイ修好経済関係条約(アミティ条約)により多くの業種で内国民待遇を受けられる。日本企業は日タイEPA(JTEPA)で一部の業種に緩和がある。
  4. タイ側51%の合弁にする。ただし経営権と配当の設計を株主間契約と定款で慎重に組む必要がある。
⚠️まちがえやすい|ノミニー(名義株主)は違法
タイ人の名義を借りて形式上51%をタイ側とし、実質は外国人が支配する――いわゆるノミニーは外国人事業法36条で明確に禁止されています。違反すれば外国人側にも名義を貸したタイ人側にも刑事罰(禁錮または罰金)が科され、事業の停止を命じられます。近年、当局はタイ人株主の資金の出所を確認する運用を強めており、設立時にタイ人株主の預金証明を求められるケースが増えています。「みんなやっているから大丈夫」は通用しません。合弁にするなら、実質を伴うパートナーを選んでください。
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会社設立の手順

外資規制の整理がついたら、いよいよ設立です。2023年の商法改正で発起人は3名から2名に緩和され、小規模な設立がしやすくなりました。

1
① 社名の予約
商務省事業開発局(DBD)にオンラインで3案まで申請。既存の社名と紛らわしいと却下される。有効期間は30日。
2
② 事業内容と資本金の設計
定款の目的(วัตถุประสงค์)を広めに列挙する。資本金は労働許可・ビザの要件から逆算する。
3
③ 発起人と株主の確定
発起人は2名以上。外国人比率が49%を超えるなら外国人事業許可またはBOIが必要。
4
④ 定款の登記
発起人が定款を作成し、DBDに登記する。
5
⑤ 創立総会と会社登記
取締役・監査人を選任し、株式の払込(最低25%)を行い、会社登記を完了する。実務上は④⑤を同日に行うことが多い。
6
⑥ 税務登録
法人税番号(13桁)を取得。売上180万バーツ超の見込みならVAT登録。
7
⑦ 社会保険の事業所登録
従業員を雇用したら30日以内に登録する。
8
⑧ 銀行口座の開設
登記書類と取締役のパスポートが必要。取締役本人の来店を求められることが多い。
9
⑨ ビザ・労働許可
Non-B ビザ→労働許可。会社の登記と納税実績が前提になる。

現地法人の設立手順。実務では専門業者に依頼するのが一般的。設立だけなら2〜4週間、外国人事業許可を伴う場合は数か月かかる。

資本金をいくらにするか

  • 外国人1人の労働許可につき、払込資本200万バーツ(BOI企業は免除)。3人なら600万バーツ。
  • 外国人1人につきタイ人従業員4名の雇用(BOI企業は緩和)。
  • 外国人事業許可を伴う場合、業種ごとに最低資本金(原則300万バーツ以上、業種により異なる)。
  • 資本金は事業の信用でもある。取引先や銀行が登記簿を見る。
🧰実務メモ|設立で「あとから困る」3つのポイント
① 定款の目的を狭く書きすぎる。後から事業を広げるとき、定款変更の登記が必要になります。最初から広めに列挙しておくのが定石です。② 取締役の署名権限(อำนาจกรรมการ)の設計。「取締役2名の連署+社印」など、登記簿に記載されます。1名単独にすると迅速ですが、リスク管理上は連署が無難です。③ 会計年度の設定。12月決算が一般的ですが、親会社に合わせて3月決算にすることもできます。後から変更するには税務署の承認が要ります。
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ビザと労働許可

働くには「ビザ」と「労働許可」の両方が必要です。この2つは別の役所(入国管理局=警察、労働省雇用局)が扱い、手続きも別々です。

Non-B
就労目的の基本ビザ。入国後に1年の滞在許可へ延長するのが通例。
労働許可(WP)
ใบอนุญาตทำงาน
職種・勤務先が特定される。転職には変更手続きが必要。
90日報告
รายงานตัว 90 วัน
90日ごとに居住地を入管に報告。オンラインでも可。
TM30
住居の届出。家主または本人が入管に届ける。各種手続きで提出を求められる。
再入国許可
Re-entry permit
これを取らずに出国すると滞在許可が失効する。最も多い事故。
LTRビザ
10年の長期居住ビザ。富裕層・年金生活者・高度専門職など4区分。高度専門職は所得税17%。
DTVビザ
2024年開始。5年マルチ、1回180日滞在。デジタルノマド・長期滞在向け。
リタイアメント
50歳以上。預金80万バーツまたは年金の要件。就労は不可。
スマートビザ
対象産業の専門家・投資家・スタートアップ向け。労働許可が不要になる区分がある。

基本の流れは、① 日本(または第三国)のタイ大使館でNon-B(就労)ビザを取得 → ② タイに入国 → ③ 労働省で労働許可(ワークパーミット)を取得 → ④ 入国管理局で1年間の滞在許可に延長 → ⑤ 以後、毎年更新。並行して90日報告と再入国許可の管理が必要です。

⚠️まちがえやすい|再入国許可(Re-entry Permit)を忘れない
1年の滞在許可を持っていても、再入国許可を取らずに出国すると、その瞬間に滞在許可が失効します。帰国してもう一度ビザを取り直すことになり、労働許可も無効になります。これはタイ在住の日本人が最も多く経験する「事故」です。シングル(1回)とマルチプル(1年間何度でも)があり、出張が多い人は必ずマルチプルを取ってください。空港でも取得できますが、時間に余裕をもって。
住居の届出TM30
外国人が滞在する住所を、24時間以内に入管へ届け出る制度。本来は家主の義務だが、実務上は本人が確認しておくのが安全。ビザ更新時に提出を求められる。
90日報告รายงานตัว 90 วัน
同一の住所に90日以上連続で滞在する外国人が、90日ごとに居住地を報告する制度。オンライン・郵送・窓口で可能。遅れると罰金(2,000バーツ程度)。
LTRビザLTR
2022年開始の10年ビザ。①富裕層、②年金生活者、③タイで働くリモートワーカー、④高度専門職の4区分。④は個人所得税が一律17%になる。
DTVビザDTV
2024年開始。5年有効・1回の滞在180日のマルチプルビザ。リモートワークやムエタイ・料理などの活動が対象。タイ企業で働くことはできない点に注意。
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土地と不動産

外国人はタイの土地を所有できません。これはタイの不動産に関わるすべての判断の出発点です。

土地(個人名義)
外国人は原則として所有できない。相続でも取得後に処分が求められる。
コンドミニアム
所有できる。ただし建物の専有面積の49%まで。購入代金の海外送金証明が必要。
土地(法人名義)
BOI認可企業・IEAT工業団地の企業は事業用地を所有できる。それ以外の外資49%超の法人は不可。
リース(借地・借家)
30年まで登記可。更新の約束は法的に弱い。工業用地は50年+更新の制度もある。

コンドミニアム法により、外国人は1棟の専有面積の合計49%までを所有できます。条件は、購入代金を海外から外貨で送金し、銀行から送金証明を取得することです(第15章)。この証明がないと所有権移転登記ができません。

  1. BOI認可企業/IEAT工業団地の企業として所有する。事業用地に限られ、恩典が終われば処分が必要になることがある。
  2. リース(借地)。30年まで登記でき、更新の合意を契約に書くことはできるが、更新を強制する法的な効力は弱いとされる。工業用地には50年+49年更新の制度がある。
  3. タイ法人を通じて保有する。ただし外資49%以下である必要があり、ノミニー規制に抵触しない実体が求められる。
⚠️まちがえやすい|「99年リース」「外国人枠75%」の話には慎重に
外国人の不動産取得を緩和する案(リース期間を99年に延ばす、コンドミニアムの外国人枠を引き上げる)は、2024年以降くり返し議論されています。しかし「国土を売り渡す」という強い反発があり、実現していません。販売業者が「もうすぐ99年リースになります」と説明することがありますが、現行法で確定していないものを前提に投資判断をしないでください。
🧰実務メモ|住まいを借りるときの実務
① 契約は通常1年。2年目以降は再契約。3年以上の賃貸借は登記が必要(登記しないと3年までしか対抗できない)。② デポジットは家賃2か月分+前家賃1か月が相場。退去時のトラブルが多いので、入居時に部屋の写真を撮ってオーナーと共有しておく。③ TM30の届出を家主にしてもらう(またはしたことを確認する)。④ 会社契約にすると家賃の一部を経費にできるが、現物給与として個人所得税の対象になる場合がある。税理士に確認を。
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コストとスケジュール

項目目安備考
会社設立(登記費用)資本100万バーツで数千〜1万バーツ程度資本金額により変動
設立代行の報酬3万〜10万バーツ業者・範囲により幅が大きい
外国人事業許可(FBL)数か月+弁護士費用取得できない場合もある
BOI申請審査40〜90日。申請料は低額事業計画の作成が最大の工数
月次の記帳・税務代行月8,000〜3万バーツ取引量による
年次監査3万〜10万バーツ以上会社規模による。監査は全社に義務
ビザ・労働許可1人あたり2万〜5万バーツ/年代行費用込み

スケジュールの目安は次のとおりです。BOIを使わない一般的な現地法人なら、社名予約から銀行口座の開設まで4〜8週間。BOI申請を伴う場合は、申請から承認まで2〜3か月、そこから設立と恩典証書の取得でさらに1〜2か月。外国人事業許可(FBL)が必要な場合は、3〜6か月以上を見込んでください。

設立前チェックリスト

まとめ

  • 事業形態は非公開株式会社が基本。駐在員事務所は営業活動ができない。
  • 外国人事業法のリスト3「その他のサービス業」が広く効く。外資100%にはBOI、FBL、条約、合弁の4つの道がある。
  • ノミニー(名義株主)は違法で、貸した側にも罰則がある。
  • 外国人1人の労働許可につき払込資本200万バーツとタイ人4名の雇用が原則。
  • 外国人は土地を所有できない。コンドミニアムは49%枠内で、海外からの送金証明が必須。
章末

章末チェック(5問)

1. 外国人事業法のリスト3で、実務上もっとも問題になる項目は。

  • 新聞・ラジオ・テレビ
  • 41番目の「その他のサービス業」という包括条項 ← 正解
  • 国内の陸海空運
  • 土地の取引

コンサルティング、ITサービス、人材紹介、物流、グループ会社への役務提供までが対象になりえます。

2. 外資100%で事業を行う方法として正しくないものは。

  • BOI恩典を取得する
  • 外国人事業許可(FBL)を取得する
  • 条約による例外を使う(アミティ条約・JTEPA)
  • タイ人に名義を借りて51%をタイ側にする ← 正解

ノミニーは外国人事業法36条で明確に禁止され、貸した側にも刑事罰があります。

3. 外国人1人の労働許可に必要な払込資本と、タイ人従業員の人数は。

  • 払込資本100万バーツ、タイ人2名
  • 払込資本200万バーツ、タイ人4名 ← 正解
  • 払込資本300万バーツ、タイ人4名
  • 払込資本500万バーツ、タイ人10名

BOI企業は免除または緩和されます。

4. 外国人がコンドミニアムを買うときに必要な条件は。

  • 建物の専有面積の49%枠内であることと、購入代金を海外から外貨で送金し証明を得ること ← 正解
  • タイの居住者であること
  • 労働許可を持っていること
  • タイ人配偶者がいること

送金証明(旧FET)がないと所有権移転登記ができません。

5. 再入国許可を取らずに出国するとどうなるか。

  • 何も起きない
  • 罰金のみ課される
  • その時点で滞在許可が失効し、ビザを取り直すことになる ← 正解
  • 労働許可のみが失効する

タイ在住の日本人が最も多く経験する「事故」です。出張が多い人は必ずマルチプルを取りましょう。