タイで会社をつくる
ここから実践編です。第I部〜第III部で学んだ制度を、自分の会社と生活に適用する段階に入ります。この章では、事業形態の選択、外国人事業法(FBA)という最大の壁、会社設立の手順、ビザと労働許可、そして土地と不動産を扱います。ここに書いてあるのは「論点の地図」です。実際の手続きは必ず専門家と行ってください。
外国人事業法は3つのリストで外資を規制する。とくにリスト3の「その他のサービス業」という包括条項が広く効く。
外資49%超で事業をするには、外国人事業許可(FBL)かBOI恩典か、条約による例外のいずれかが必要。
外国人は土地を所有できない。コンドミニアムは建物専有面積の49%まで所有でき、海外からの送金証明が要る。
どの形で事業をするか
最初の分岐は事業形態の選択です。タイでは圧倒的多数が非公開株式会社(บริษัทจำกัด Co., Ltd.)を選びます。
| 形態 | 収益活動 | 外資規制 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 現地法人(Co., Ltd.) | 可 | FBAの対象 | 本格的な事業。もっとも一般的 |
| 駐在員事務所 | 不可 | 外国人事業許可が必要 | 市場調査、本社への報告、品質管理 |
| 支店(ブランチ) | 可 | 外国人事業許可が必要な場合が多い | 工事請負など期間限定の事業 |
| 合弁(JV) | 可 | タイ側51%なら規制外 | 規制業種への参入、販路の確保 |
| 公開株式会社(PCL) | 可 | FBAの対象 | 株主15名以上。上場を目指す場合 |
| IBC(国際事業センター) | 可 | 恩典対象 | 地域統括、共通サービスの提供。駐在員の所得税15% |
外国人事業法(FBA)――最大の壁
外国人事業法(FBA、1999年)は、外国人(外国籍者および外資が過半を占める法人)が行える事業を制限する法律です。3つのリストがあり、それぞれ扱いが違います。
「その他のサービス業」という包括条項があるため、多くの外資系サービス事業がリスト3に該当する。
実務でとくに問題になるのはリスト3です。41番目に「その他のサービス業」という包括的な項目があり、リストに明記されていないサービス業のほとんどがここに落ちるからです。コンサルティング、ITサービス、人材紹介、物流、そしてグループ会社への役務提供までが対象になりえます。
では、どうやって外資100%にするのか
- BOIの恩典を取る(第13章)。製造業なら最も現実的。承認を受ければ外資100%と土地所有が認められる。
- 外国人事業許可(FBL、ใบอนุญาตประกอบธุรกิจของคนต่างด้าว)を取得する。商務省の審査で、タイへの技術移転や雇用への貢献が問われる。時間がかかる。
- 条約による例外を使う。米国企業は米タイ修好経済関係条約(アミティ条約)により多くの業種で内国民待遇を受けられる。日本企業は日タイEPA(JTEPA)で一部の業種に緩和がある。
- タイ側51%の合弁にする。ただし経営権と配当の設計を株主間契約と定款で慎重に組む必要がある。
会社設立の手順
外資規制の整理がついたら、いよいよ設立です。2023年の商法改正で発起人は3名から2名に緩和され、小規模な設立がしやすくなりました。
現地法人の設立手順。実務では専門業者に依頼するのが一般的。設立だけなら2〜4週間、外国人事業許可を伴う場合は数か月かかる。
資本金をいくらにするか
- 外国人1人の労働許可につき、払込資本200万バーツ(BOI企業は免除)。3人なら600万バーツ。
- 外国人1人につきタイ人従業員4名の雇用(BOI企業は緩和)。
- 外国人事業許可を伴う場合、業種ごとに最低資本金(原則300万バーツ以上、業種により異なる)。
- 資本金は事業の信用でもある。取引先や銀行が登記簿を見る。
ビザと労働許可
働くには「ビザ」と「労働許可」の両方が必要です。この2つは別の役所(入国管理局=警察、労働省雇用局)が扱い、手続きも別々です。
基本の流れは、① 日本(または第三国)のタイ大使館でNon-B(就労)ビザを取得 → ② タイに入国 → ③ 労働省で労働許可(ワークパーミット)を取得 → ④ 入国管理局で1年間の滞在許可に延長 → ⑤ 以後、毎年更新。並行して90日報告と再入国許可の管理が必要です。
土地と不動産
外国人はタイの土地を所有できません。これはタイの不動産に関わるすべての判断の出発点です。
コンドミニアム法により、外国人は1棟の専有面積の合計49%までを所有できます。条件は、購入代金を海外から外貨で送金し、銀行から送金証明を取得することです(第15章)。この証明がないと所有権移転登記ができません。
- BOI認可企業/IEAT工業団地の企業として所有する。事業用地に限られ、恩典が終われば処分が必要になることがある。
- リース(借地)。30年まで登記でき、更新の合意を契約に書くことはできるが、更新を強制する法的な効力は弱いとされる。工業用地には50年+49年更新の制度がある。
- タイ法人を通じて保有する。ただし外資49%以下である必要があり、ノミニー規制に抵触しない実体が求められる。
コストとスケジュール
| 項目 | 目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 会社設立(登記費用) | 資本100万バーツで数千〜1万バーツ程度 | 資本金額により変動 |
| 設立代行の報酬 | 3万〜10万バーツ | 業者・範囲により幅が大きい |
| 外国人事業許可(FBL) | 数か月+弁護士費用 | 取得できない場合もある |
| BOI申請 | 審査40〜90日。申請料は低額 | 事業計画の作成が最大の工数 |
| 月次の記帳・税務代行 | 月8,000〜3万バーツ | 取引量による |
| 年次監査 | 3万〜10万バーツ以上 | 会社規模による。監査は全社に義務 |
| ビザ・労働許可 | 1人あたり2万〜5万バーツ/年 | 代行費用込み |
スケジュールの目安は次のとおりです。BOIを使わない一般的な現地法人なら、社名予約から銀行口座の開設まで4〜8週間。BOI申請を伴う場合は、申請から承認まで2〜3か月、そこから設立と恩典証書の取得でさらに1〜2か月。外国人事業許可(FBL)が必要な場合は、3〜6か月以上を見込んでください。
まとめ
- 事業形態は非公開株式会社が基本。駐在員事務所は営業活動ができない。
- 外国人事業法のリスト3「その他のサービス業」が広く効く。外資100%にはBOI、FBL、条約、合弁の4つの道がある。
- ノミニー(名義株主)は違法で、貸した側にも罰則がある。
- 外国人1人の労働許可につき払込資本200万バーツとタイ人4名の雇用が原則。
- 外国人は土地を所有できない。コンドミニアムは49%枠内で、海外からの送金証明が必須。
章末チェック(5問)
1. 外国人事業法のリスト3で、実務上もっとも問題になる項目は。
- 新聞・ラジオ・テレビ
- 41番目の「その他のサービス業」という包括条項 ← 正解
- 国内の陸海空運
- 土地の取引
コンサルティング、ITサービス、人材紹介、物流、グループ会社への役務提供までが対象になりえます。
2. 外資100%で事業を行う方法として正しくないものは。
- BOI恩典を取得する
- 外国人事業許可(FBL)を取得する
- 条約による例外を使う(アミティ条約・JTEPA)
- タイ人に名義を借りて51%をタイ側にする ← 正解
ノミニーは外国人事業法36条で明確に禁止され、貸した側にも刑事罰があります。
3. 外国人1人の労働許可に必要な払込資本と、タイ人従業員の人数は。
- 払込資本100万バーツ、タイ人2名
- 払込資本200万バーツ、タイ人4名 ← 正解
- 払込資本300万バーツ、タイ人4名
- 払込資本500万バーツ、タイ人10名
BOI企業は免除または緩和されます。
4. 外国人がコンドミニアムを買うときに必要な条件は。
- 建物の専有面積の49%枠内であることと、購入代金を海外から外貨で送金し証明を得ること ← 正解
- タイの居住者であること
- 労働許可を持っていること
- タイ人配偶者がいること
送金証明(旧FET)がないと所有権移転登記ができません。
5. 再入国許可を取らずに出国するとどうなるか。
- 何も起きない
- 罰金のみ課される
- その時点で滞在許可が失効し、ビザを取り直すことになる ← 正解
- 労働許可のみが失効する
タイ在住の日本人が最も多く経験する「事故」です。出張が多い人は必ずマルチプルを取りましょう。